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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)5018号 判決 1984年7月20日

原告 木村商事株式会社

右代表者代表取締役 香西九一

右訴訟代理人弁護士 中島晧

同 二瓶修

同 久保貢

同 荒井俊通

被告 株式会社平和相互銀行

右代表者代表取締役 稲井田隆

右訴訟代理人弁護士 小林宏也

同 長谷川武弘

同 篠原煜夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告は、原告に対し、金三二六万八六三〇円及びこれに対する昭和五八年六月四日から完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

3. 仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 訴外株式会社藤代造船所(以下「藤代造船所」という。)は、同社が振り出した別紙約束手形目録記載の約束手形三通(以下「本件各約束手形」という。手形金合計三二六万八六三〇円。)について、銀行取引停止処分を免れるため、被告に対し、東京手形交換所への異議申立手続をとることを委託すると共に、右手形金相当額の金員を異議申立提供金に充てる資金として預託(以下「本件預託金」という。)し、被告は、右委託に応じて、東京手形交換所に同額の金銭を異議申立提供金として交付した。

2. 原告は、本件各約束手形について取得した仮執行宣言付判決の正本に基づき、千葉地方裁判所に対し、本件預託金の返還請求権を目的とする債権差押転付命令を申し立て(同裁判所昭和五八年(ル)第八六号、同年(ヲ)第一二三号債権差押及び転付命令申立事件)、同裁判所は、同年二月二一日、同命令を発し、その正本は、同月二六日藤代造船所に、同月二三日被告に、それぞれ送達され、同命令は執行抗告期間が経過した同年三月六日に確定した。

3. 一般に取引停止処分回避の為の異議申立に伴う預託金の返還債務は、期限の定めのない債務であり、遅くとも、これに対する債権差押転付命令が確定したときは、催告があったものとして履行期が到来するというべきであるところ、前述の通り、本件預託金返還請求権に対する同命令は確定しているのであるから、被告は、直ちに転付債権者である原告にその支払をなすべきである。

よって、原告は、被告に対し、転付に係る預託金三二六万八六三〇円及びこれに対する履行期後である訴状送達の日の翌日の昭和五八年六月四日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1の事実は認める。

2. 同2の事実のうち、原告主張の債権差押転付命令が主張の頃被告に送達されたことは認め、その余は不知。

3. 同3の主張は争う。

すなわち、支払銀行の手形債務者に対する預託金返還債務の履行期は、支払銀行が手形交換所から異議申立提供金の返還を現実に受けたときに到来するものである。そして、異議申立提供金は、東京手形交換所規則六七条に定める各事由の一が発生したときに支払銀行に返還されるものであるところ、本件においては右の事由はいずれも生じておらず、従って被告に返還されていないのであるから、いまだ、本件預託金返還債務の弁済期は到来していない。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

同2の事実のうち、原告主張の債権差押転付命令が主張の頃被告に送達された点は当事者間に争いがなく、その余は、いずれも成立に争いのない甲第一、二号証及び弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二、原告は、本件預託金返還債務には履行期の定めはなく、遅くとも、これに対する債権差押転付命令が確定したときには、催告があったものとして、履行期が到来したと主張しその履行を求めている。

しかしながら、異議申立提供金に見合う資金として支払銀行に交付する金員の預託は、手形交換所に異議申立手続を委託するに際して交付する委任事務処理費用の前払の性質を有するものであるから、その返還債務の履行期も、右委任事務が終了して、支払銀行が手形交換所から右預託金を資金として提供した異議申立提供金の返還を現実に受けた時に到来するものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四五年六月一八日第一小法廷判決、民集二四巻六号五二七頁参照。)。

ところで東京手形交換所規則六七条一項一号によると、不渡事故が解消し、持出銀行から交換所に不渡事故解消届が提出された場合において、支払銀行から請求があったときは、異議申立提供金を返還するとされ、同施行細則八〇条は、当該手形債権に関し、当該異議申立提供金のための預託金の返還請求権を目的とする転付命令を得た場合が右の事故解消に含まれるとしているところ、本件では、持出銀行から交換所に事故解消届が提出されるなどの右規則に定める諸手続を経て、異議申立提供金が支払銀行たる被告に返還されたことについては、何ら主張、立証がないのであるから、本件預託金返還債務の履行期は未だ到来したと認めることはできないというほかはなく、単に転付命令が確定したことにより当然に履行期が到来している旨の原告の主張は失当である。

三、よって、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 澤田英雄 端二三彦)

<以下省略>

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